ご馳走様でした
ゴカングワンガラン
鐘の音が聞こえる。
いや鐘の音しか聞こえないといったほうが正しいだろうか。
少年がこの小さな隙間に身体を押し入れたときに
埃だらけの机に積んであった大きなの木箱を床に落としてしまったが
その衝撃音さえもこの鐘の音にかき消されてしまった。
それでも音を出さないようにと小さな小さな隙間に身体を縮こめて潜んでいた。
ドクンドクンと心臓が脈打ち、この心音が出ぬようにと口を両手で押さえていた。
強く押さえつけていても恐怖で歯がガチガチと鳴らし震えている。
(この鐘があと3回なれば・・・)
少年は震えながらもその時を静かに待っている。
耳の鼓膜を打ち破りそうな鐘の音も時を告げ終え鳴り止む。
無音に帰り、今だドクドクと胸の早い鼓動が続いたがそれも落ち着くと胸に溜まった息を静かに大きく吐き出した。
鐘にもっとも近い一室は滅多なことでは人が近づかない古い物置と化している。
お陰で少年は今だ誰にも見つかることなくソコに居た。
ふと目線を前にやると物陰の隙間から先ほどブチ撒けた箱の中身が散乱している。
中にナイトやキング、プリンセスなどの小さな彫り物の人形を見つける。
その人形は同じ数だけ黒い人形と白い人形が対になっていて
白と黒のマス目模様の箱に入っているものだった。
遊び方などは知らなかったが仲が良かった姉とルールを決めて使っていた。
よくこの一室で遊んだものだとあれもこれもと思い出して幸せな気分に浸っていた。
そのまま静かな時が流れていく。
ゴカングワンガラン
しばらくして少年はハッとして飛び起きる。
いつの間にか眠っていたらしい。
また心臓がドクンドクンと早鐘のように鳴る。
(今、何回目だっけ・・・10回なったら部屋に戻らないと母様が・・・)
必ず10回になったときに・・・そう夕食の時と同じぐらいに部屋に戻らなけらばならなかった。
(9回ではあの部屋に連れていかれる。
11回目では理由を問われてボクは嘘をつくことになる!)
少年は、鐘を何回聞いたことを完全にわからなくなっていた。
まだまだ鐘は鳴り響く、その最中に小さく人の声が聞こえた。
避けていた者に呼ばれ少年はビクリと身体を大きく反応させる。
前に目線を向けた拍子にとある失敗を犯してしまったことに気付く。
先ほど床にばら撒いた木箱だ。
このままではあの声の主はココに誰かが入ったことが解るだろう。
(そうなれば・・・!)
とっさに少年は床の物を隠そうと拾い集めた。
その間にも声はだんだんと近づいてきた。
早く早くと人形を拾い集めているうちに
黒のプリンセスが足りないのに気が付く。
キョロキョロと辺りを見回し離れて落ちている人形を発見した。
とっさに少年は拾おうと手をのばす。
しかしヌッと影が少年に伸びてきたかと思うと
その人形は足に踏みつけられ目の前で砕けてしまった。
「ルー!こんなところにいたのね!こんな埃だらけになって!・・・でもすぐに着替えるからね・・・・。」
影の主の女性は優しくにこやかに少年を抱き上げた。
少年は必死に笑顔を作り上げ、オズオズと女性に問いかける。
「母様、今何時でしょうか?」
- 2007/01/01 (月) 01:00
- 閑話 その1