そっちの話 その1
夢の主は夢から逃げるように飛び起きた。
早くなる心音に胸を押さえ
自分が埃だらけの物置にはいないと知ると、
一息もらし深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
しだいに襲ってきた激しい倦怠感と頭痛に
寝足りぬとばかりに再び枕に顔を埋めるが、
目を閉じると断片的にまたも夢の続きが再生されてしまい、このままでは眠れぬと悟りまた目を開いた。
夢の主は『夢の案内人』とはいかないようだった。
そこにひまわりのような笑顔が覆いかぶさるように顔を覗き込む。
「あー、マギさま起きたっ!」
ニコニコと嬉しそうにコチラを見つめる。
「トルン君・・・?」
ボーっとしながら思いついた名前を呼んでみる。
覗き込んだ顔は呼ばれたことにハッと何かを思い出し叫ぶ。
「そうだ!トルン皇子が『マギさま起きたら呼んで』って言ってたんだ!」
パッと乗っかていたベッドから飛びのきそのまま少女が廊下へと駆け出す。
「・・・ハナちゃん?」
1週間ほど前に城に連れてきた少女の名を思い出す。
少女の背中を見送りながら今の自分を見られたことに「トルン君のアホ」と一言いって深くため息をもらす。
さらに独り言は続く、今度は
「・・・・・・・・・・・・・・・・生臭い?」
マギは先ほどからプンプンと充満する異臭に首をかしげた。
まさかまさかまさか・・・
元々、あまり回りきれてない血の巡りが頭からザーっと引いていくのが解る。
考えたくないが考えたくないが・・・っ
「うわぁぁ!猫?舐められた!舐められた!」
このまま耐え難い臭いを自らが放っていることに衝撃をうけて、思うように動かない手足をジタバタと動かし泣き叫ぶ。鼻をつまんでも奥からも臭う。
マギの部屋から聞こえる奇声を聞きつけトルンが何事かと駆けつけてきた。バンと扉を開けるやいなや
「マギさま!何事ですか!動けないことを良いことにまた姉上たちがトンでもないことを!!!!」
・・・と叫んだ。
「トルン君ットルン君!!!!風呂!飯!寝る!」
あわてて駆けつけたところを
どこぞの亭主関白のようなセリフで応答され、
その場でしばらく固まっていたが、我に返ると大きな大きなため息を漏らし「駄目です。」・・・とぴしゃりと厳格に終わらせた。
「何でさ、トルン君のバカチンめが!!さてはボクへに対する腹いせだっ!」
とマギが不貞腐れている。
それにトルンは「ヤレヤレ」とあきらめ顔でベッド脇の小さな台に湯を張った洗面器を置いてマギの腕を掴み取る。
掴まれた腕に激痛がはしり「・・・ッ!」小さな悲鳴をあげ顔をしかめた。
「ほら、まだ傷がふさがっていないでしょう。風呂など入れません!
まったく・・・出血大サービスとかいって駄洒落で物事をやろうとしないでください。」
そういいながらジャボジャボと湯に布を浸して搾り取る。
「はい、コレで我慢してください」
トルンは布をマギにポンと手渡した。
「セセセセ、セルフサービス!?」
「何を期待されているのですか!
ソレぐらいご自身でお願いしますよ!」
「イーヤーダー!!君に掴まれたせいで腕あがりませーん!力はいりませーん。」
「あーもう、あーいえばこーいう!」
といい一度手渡した布を奪い取る。
仕方なしにガシガシとマギの頭を布でこする。
「あああ、トルン君・・・もう少し優しくして。ほら首の所も切っちゃったし・・・」
「ハイハイ」
といいながら全く強さは変えずに続けた。
- 2007/10/30 (火) 22:41
- 閑話 その1