そっちの話 その2
しばらくして扉の方から落ち着いた女性の声が投げかけられた。
「いーいご身分ですわね。トルン。ところで誰が誰にイタズラしたですって?」
「姉上!」ハッとしてその声の方向に視線を向ける。
「ワタクシ達がマギさまにどうこうするはずないでしょう?」背の高い均衡の取れた美しい女性が冷笑を浮かべてたたずんでいた。
そこにひょっこりと将来有望といった感じの美しい女の子が口をそろえる。
「そうですわ、お兄様!わたし達は『マギさまが兄様に何かする』のがみたいんですの!」
「あらあらあら何を言うのかしら、ロエ。『トルンがマギさまに何かする』のが見たいのよ」
「いーえ、姉さまこそ何をおっしゃいますの!」
「まぁ、アナタは解らないのね。こう『野獣的』に・・・」
「いいえ、そんなのナンセンスですわ。この世には『絶対服従』という・・・」
と、お互い一歩も譲らないと言った様子で討論が繰り広げられ始めた。
そろそろ一般の方々が耳にすることないような言葉が熱く飛び交ってきたところでトルンが静止する。
「あのー、お取り込み中に大変失礼ですが、
もう用のない方は出て行ってもらえませんか?」
討論を邪魔されキッと同時に向き合った視線をトルンに集中し、声をそろえて。
「あなたはドッチ派なの!?」
「ドッチもありませんし、ドッチ派でもありません!」
力強く否定し、「お願いだから消えてくれ」といった懇願の目で二人を見つめる。
この姉共のヒートっぷりにはいつもトルンも困り果てた。
「トルン様~、○×△◇ってなんですか?」といつの間にか横に鎮座していたハナが道ゆく人に聞けば裸足で逃げ出すであろう質問を投げかける。
「ひぃぃぃ、ハナちゃんの口から出版禁止用語が飛び出すなんて・・・」
「ハナちゃん。それはね、女性でいう△○×△の・・・」
「△○×△???」
「マギさま、また変な単語教えないでください!」
と、トルンは布を顔に押し付けマギの口をさえぎる。
「あら、そういえば用ならあるわよ?」
姉が思い出したようにトルンの先ほどの質問に答える。
「ってちゃんと聞いてたなら無視しないでください。」
「あなたのタイミングが悪いのよ、ワタクシ達はそれほど真剣なの。・・・そうそうコレをマギさまにお渡ししようかと思って・・・」
姉は小さな香炉をとりだした。
「ふふ、3日ほど前に港で外国の新刊本を探していたとき立ち寄った雑貨屋で見つけたのよ。それにしてもあっちの本は規制が緩くて良いわね。お陰で6カ国語は自分でも翻訳できてよ。」
と自慢げにフンと鼻をならして姉は曰く。
「相変わらず、そういうことに関しては能力がずば抜けてますね、姉上。」
投げやりながらもとりあえず褒めるトルン。
「何をいいますの、ワタクシの人生に能力をかけることの何処が悪いのかしら?」
人生なのか・・・と言い返したかったところだが一言でも言おうものなら10倍は帰ってきそうなのでトルンはそのまま自分の中にしまいこんだ。
マギの頭に先ほどのタオルを残し、ゆっくりと立ち上がる。
「姉さま、本当に今日は勘弁してください。」
扉の前に立って退こうとしない姉達を見かねて、トルンがコレに近づき頼み込む。
「ふふふ、うるさくしてはマギさまがゆっくり休めませんものね。トルン、これを。」
といって条件的に手を差し出したトルンに先ほどの香炉と数種類ある先を長く固めた三角形のお香が入った木箱を渡す。
「とてもいい香りがして落ち着きますからゆっくりお休みくださいね。」
にこりとマギに向かい微笑み、胸に手を沿え軽く一礼すると、ロエに声を掛け静かに退室した。
・・・がしばらくすると廊下から先ほどの談義の続きが始まるのが聞こえてきた
- 2007/10/30 (火) 22:42
- 閑話 その1