よーい、ドン
城があった。端麗というよりもむしろ頑健といった感じのドッシリとした作りになっている。
ソレを取り囲むように数キロにわたり延々と大小さまざまな建物が所狭しと広がっていた。
その中の一つ、城の規模にしては小さめな部屋、城の作りには似つかわしくない少々お粗末な寝具や家具が並んでいる。
この部屋の住人は年の頃14、5といったところだろうか、一見すると繊弱な印象を受ける。
髪の色は薄く赤みが入った銀色、健康的とはいえない白い肌、あげく着ているものまでコレといった主張のない白で、単調な白を基調とした部屋に同化していた。
一人、机に片肘をつき顔を手に乗せ本に黙々と赤い瞳を滑らせている。この赤だけがココに濃く浮かびあがる。
太陽が真上に昇り文字が自分の影により見づらくなったのを機に、本から窓に視線を移す。
その向こうに広がる青海原の手前の港に船から荷物を下ろす様子をしばらくボーっと眺める。
「・・・もぅこんな時間か・・・」
背伸びをし、さらに視線を上げると柔らかな日差しを背に受けながら鳥が旋回する。
幾度と無く今日という日を迎えたが、ふと頭を過ぎるのは同じ、
記念すべき日を迎えた何十という少年らの顔がふわりふわりと鮮明に思い出される。
皆、希望に満ち満ちた眩しいとも云える良い目をした顔ばかりだった。思い出し目を細める。
そこにコツコツと2回、部屋のドアが軽く叩かれる。相手には見えぬが満面の笑みで「どうぞ」と軽く返事をする。
国皇に手を引かれトルンは緊張した面持ちで部屋に入った。
「マギ様。トルンを連れてきました。どうぞよろしくお願いします。」
「マギさま!僕も12歳になりました。これからはマギさまのお傍で皇になる心得を学ばせてもらいます!」
興奮した様子でトルンがキラキラと目を輝かせ挨拶をする。
トルンにとってマギは特別な存在である。
この世に『マギさま』が存在しなければ生きてる意味がない、我が人生にこの人ありき!すでに『マギさま』無しでは活きていけない・・・そんな存在であった
早くいえば「マギさま大好き!!」である。これは親・兄弟が大好きという感情に近いものであった。
しかしこの物語は愛した分だけの愛が憎悪に変わる・・・そんな予兆にすぎない・・・とかナントカ・・・
マギは読みかけの本に付箋をしパタリと閉じ机の上に置いた。
イスから立ち上がり間延びした声で言う。
「やぁ、トルン君。そんな緊張しなくてもいいよ。
実際にはなーんにもすることなくて暇なんだからね。」
(・・・嘘だ・・・)
心の底から国皇は思った。
この国では皇位継承者は12歳になったら次の皇になるまでマギに世話をしながら皇の心得を学べという仕来たりがいつの間にか出来ていた
実際その真意は“マギの相手が出来るようになったら何があっても大丈夫”であるのだがそれはまた別の話
「さて、トルン君・・・早速ですが・・・」
マギは少し真面目な顔して切り出した。
(・・・来た・・・)
どうやら国皇もそのイベントがあったらしい。
握った父の手が汗ばんできたのが解かった。
「うん、ルールは簡単。ボクと鬼ごっこをしてもらいます。あっトルン君が鬼だから。
これでトルン君がどれくらい優秀かテストさせてもらうからね。」
ニコニコと言うマギ。呆気にとられるトルン。
「えっ、あのそれはどういう・・・」
しどろもどろとトルンは戸惑った。マギはよく自分の理解しかねる事を言うのだか今日はまた格別に訳が解らない。
何から質問すれば良いのかも想像も着かない間に相手はかまわず続ける。
「まぁちょっとスケールでかくなるけど。普通の鬼ごっこだよ。どれくらいで見つけられるか勝負だから。じゃお互いに頑張りましょー・・・」
マギがさらさらと空中に陣を組むとその姿は見る見るうちに消えていった。
「えっあれっ。マギさま~・・・。あの父上これはどういう・・・」
「トルン、お前に最初の試練が訪れたようだ・・・。超でっかい鬼ごっこだが頑張るんだぞ」
とトルンの肩を軽く叩く。いい年したおっさんの目の端に涙が光った。
ところ変わって数100年後…
- 2007/11/09 (金) 00:00
- 働くお母さん