強制連行
「 はぁ・・・皇宮につくまでこのままか・・・3日は掛かるだろうなー。」
と肩を落としてマギが言う。
夕日の中をフンフンと上機嫌で歌を唄うトルンに引かれてマギはとぼとぼと歩いていた。その後ろにはロジャスが繋がれており、またその後ろには子分がといった具合で縄で縛られていた。
「 お嬢ちゃん、お嬢ちゃん、豚箱からでたら夫婦になろうな」
マギの真後ろで縛られているロジャスが嬉しそうに声をかける。
「 ウワー、ソレハ嬉しいナー・・・(棒読み)」
とマギはあまり嬉しくなさそうな声でさらに肩を落としてしまった。
「 2ヶ月と10日という前代未聞の速さで最初のテストをクリアしたトルン君にはハナマルを出したい所だけどこんな仕打ちは生まれてこの方初めてだ・・・。トルン君は絶対大物になると思うよ・・・。」
ブツブツと文句いっているとトルンが怒ったような困ったような顔で振り向いた。
「 何ですか、マギさま。褒めたって縄は解きませんからね。
明後日には皇宮につく予定ですのでサッサと歩いてくださいよ。」
「 ぅ・・・もしかして休みなしに歩くつもりかい?」
「 当たり前です。こんな大人数をつれて歩く予定が無かったもんですから食料やら何やらに余裕が無いんです。チンタラやってたら持ちませんよ。」
「 うぅ・・・ごめんなさい・・・。もう鬼ごっこはせずにせめてカクレンボにするからゆっくり行こうよ。」
それを聞いてトルンが悲鳴を上げる。
「 なっ!この期に及んでも尚もドコかに行かれるつもりなんですか!!」
「 へっ?駄目なの?」
「 嫌だぁぁぁっ!!コレからもこんな事が続くなんてっ・・・かくなる上は皇宮の柱に鎖で縛り付けて未来永劫に動けないようにするしかっ・・・!」
「 あっ・・・あっと待って、待って。行くときは声を掛けるから・・・っ!」
「 同じですっ!ああっ・・・もういっそこの場で足を切り取って・・・」
などと恐ろしいことを抜かすトルンと懸命にソレを阻止しようとなだめるマギの悲鳴が平原にいつまでも響いていた
明けて朝・・・
ジーナは荷物をまとめジルを連れて村の入り口で別れのときを惜しんでいた。
「 皆には迷惑を掛けてゴメンなさい。
せめて何かお礼をしたいけど夫に店を撒かせ切りであまり長くは居れなくて・・・」
そこでルイスがブンブンと顔を横に振る。
「 いいっ!いいっ!別に礼なんかしなくても・・・
それに何だかんだでもう毎年ロジャスの心配は要らなくなったからな、お釣りが来てもいいくらいだし・・・」
「 でも・・・」
ジーナが何か言いたそうに顔を上げるとルイスは困ったような顔で赤くなりながら言う。
「 ・・・そんなに礼がしたいなら時間のできたときで良いからさ・・・またコッチに来てくれよ。もちろん夫付きで三人でな!」
ルイスが鼻の下をこすりながら照れくさそうする。
「 そうそうジーナみたいな美人さんが来てくれるだけで大喜びだ。」
「 あ、もしマギに会うことがあったら『また来い』っていっといてね。」
と村びとが次々と声を揃える。
「 えぇっ!近いうちに必ずっ!」
元気良くジーナがそれに答えた。ジルも負けじとルイスに向かって言う
「 おじちゃんもその時には良いお嫁さんもらってね。」
「 はは・・・痛いとこ突くね。ちなみにまだオジちゃんって歳でもないし・・・」
グリグリとジルの頭を撫でる。
「 じゃあ・・・もう行きましょうか。ジル」
「 ばいばーい。おじちゃんっ!」
ジルが元気良くルイスに手を振る
「 おぅ、またな。・・・ちなみにおじちゃんって歳・・・」
言い終わる前にジルが声をあげる。
「 うんっ!わかったっ!おじちゃん!」
「 ・・・・・・そんなにおっさんっぽいかなー。」
ルイスが座り込んでジメジメと地面を指で掘り始めた。
ジーナがそれに苦笑するとゆっくりと家路に向かって歩き始めた。
「 ジーナー。今度は城下町の話とかもっと聞かせてねー。」
「 またねー。」
などとガヤガヤ村人たちが手をふる。
ジーナは歩きながら村が見えなくなってしまうまで手を振りながら歩いた。
そんなこんなで・・・・そしていきなり二年後・・・
「 あのっルイスさん、マギさまココに居ませんか?」
「 ああ、トルン皇子。今日は来てないと思いますけど?」
「 そうですか・・・ココに来てないとなると残るは・・・あ、お忙しいところ失礼しました。」
トルンが兵士数人を引き連れて慌しく来るとそのまま慌しく去っていった。
「 ・・・おい、マギもう行ったぞ・・・」
とルイスが物陰に隠れていたマギを呼び寄せる。
「 ありがと~ルイスさん。2年前はあんなことしてゴメンね~。
しっかしトルン君、嗅ぎ付けるの早くなったなぁ・・・。」
「 もう忘れろって・・・恥ずかしいだけだし・・・。
トルン皇子がお前を探しにこの辺うろついてくれるから何かとこの村には手を出しにくくなってるんで助かってるんだし。
トルン皇子もあんな立派になって・・・マギは全然変わんないけど・・・」
「 ふっ、実をいうとボクはルイスさんよりずっと年上なんだよ。」
マギが真剣な顔をして言うとルイスは軽くあしらう。
「 はいはい、この話になるとお前はそればっかだよな・・・んな訳ないって・・・ま、いっか。」
マギが顔に手をあて村の外に駆け出す。
「 うぅっ!今に見ているがいいっ!ルイスさんがヨボヨボの爺さんになるまで村に通いつめてボクが永遠の夢見る少年だといういことを証明してやるっ!!」
「 おぉ、宜しくたのむぞ。そうするとトルン皇子もこの辺をずっとうろついてくれるから村はずっと安泰だ。」
とルイスはまたもや軽くあしらった。
するとトルンが息を切らした様子で戻ってきて
「 ぜぇはぁ・・・言い忘れましたが・・・ルイスさん!もしマギさまが来たら私が探・・・し・・・て・・・って、あーーーっ!マギさま見つけたーーー。」
というと同時に素早くマギのえり首を捕まえた。
「 やぁ、トルン君おひさしゅー、そしてルイスさんお元気で」
マギはトルンにズルズルと引きずられながら手を振った。
「 マギさま!勝手にフラフラとこんなところまで来られては困ります。探す方の身にもって何度いえば済むんですかっ!」
「 うん、元気みたいだからこのまま歩いて帰ろうか。いい天気だし。ボクはこうやって引きずられるだけで楽チンだし。」
とそこで絶対零度といった声色でトルンがいう。
「 何言ってんですか。魔法使ってくださいよ。そのために少人数で行動しているのに。
それとも何ですか?草原のど真ん中で縛られたまま10日ほど放置されたいですか?」
「 御所場にお預かりします。マギ様~」
トルンの連れてきた兵士達がニコニコ笑いながら言う。
渋々とマギが空中に魔方陣を描いていく。
「 うぅ・・・コレ結構難しいのに・・・いいよ、いいよ・・・・・・じゃ捕まっててね。」
「 マギ~、また来いよー。酒でも用意しとくからさー。」
ルイスが手をフリフリお別れの挨拶をする。
「 うん、今度はもう少し居れるようにするから。」
「 ってルイスさん!もう『マギさま居ない』って嘘つかないでくだ・・・」
トルンの言いかけた言葉も終わらないうちに目の前から一行は掻き消えてしまった。
少し離れた一軒の家から女性が顔をだしてルイスに声をかける。
「 あなたー。ご飯できたわよー。」
「 おー今いくー。・・・なぁ子供の名前を考えたんだが男の子だったら・・・」
といいながらルイスはその家に入っていった。
それは それは のどかな村の のどかな昼時の 話。
ついに観念したマギは大人しくつかまり岐路につきます。
- 2007/11/09 (金) 00:14
- 働くお母さん