ドナドナ
「 いえ、私はマギさまが見つかればよかったのですが」
いつの間にか親切なお父さんに茶までご馳走してもらっている。
6人がけのテーブルとイスにマギとトルン、ケーツにハナ、熊と呼ばれた父親がマッタリとくつろいでいた。
「 いえいえ、ハナが気に入ったようで・・・狭い家ですがくつろいでくださいな。」
小奇麗なお母さんがニコニコとお茶を注いでくれた。
「 ・・・物は相談ですがお父さん。」
マギが妙に丁寧に話し始めた・・・。「ん?」と皆が視線をよこす
「 娘さんをウチに貰っても宜しいでしょうカ!」
「 ・・・・・・(間)・・・・・・・」
「ばふぉぉーーーーー」
マギとハナ以外の人間が茶をいっせいに吹いた。虹が・・・虹がとても綺麗だった!
「 だっ!だめよ。ドコの人かもよく解からないのに・・・」
お母さんが目を白黒させている。
「 マギさま!いきなり何いってんですかっ!」
「 いや、お手伝いさんにでも何でも・・・いい子だし」
「 オヤジ!何か言わないとっ!」
ケーツがあわてて言った
「 ・・・ケーツ、お前はちょっと外に出ていろ」
静かにお父さんがケーツに話しかける
「 んな!何で・・・っ」
「 いいからっ!」
今度は大きな声でケーツに怒鳴った。
「 っっ・・・解かったよ・・・」
ケーツは何か言いたかったがぐっと堪えて席を立つと勝手口から出て行った。
頃合を見計らってお父さんが話を切り出す。
「 どうして、ウチの娘を・・・?」
数十秒、沈黙する。
そこでマギが隣に座っていたトルンの足をゲシッと強く踏みにじる。
「 いったぁ!マギさま何すんですか!?」
「 ほら、ボクが言うより何かとトルン君のほうが説得力あるでしょっ」
ボソボソとマギが話しかける。
「 いや、まぁ少しは有るかもしれませんが・・・しかし何を説得するんですか」
「 何でもいいから理由つけてっ。ハナちゃんをゲットするっ」
「 だから何が何でどうして・・・って!うぅ、面倒なことは何でも私に押し付けて・・・後でどうなっても知りませんからね」
マギがもう一度、力強く足を踏むと渋々トルンはソレに従う。
「 私この国の皇子のトルンと申しますが・・・」
と全て言い終わらないうちに景色が一変する。
だがしゃーーん
テーブル板が急に目の前に迫ってきたかと思うと一緒に茶請けやカップやらが空中を舞った。
テーブルをひっくり返したお父さんが怒り頂点といった感じに怒鳴る。
「 ウチの娘をどうこうしようって他にっ!この皇子の名を語る不届き物めがっ!帰れっ!」
勢いでイスから転げ落ちたトルンが慌ててお父さんを制止する
「 おぉぉ・・・お父さん、落ち着いて聞いてくださいっ!!・・・わっ・・・」
「 誰が『お義父さん』だっ!ウチの娘をやった覚えは無いっ!」
「 ぃぃぃ・・いえ、そういうつもりではなく・・・へっ?」
トルンの真横をヒュバッと空を切りながらイスが飛んでいき、ソレが壁にぶち当たると粉々に砕け壁には大きな亀裂が残された。
「 おぉーパワフリャーな親父さんだね。」
「 お父さん、すっごい強いんだー。この前はうちに来た泥棒さんを素手で倒しちゃったんだよ。」
この場の雰囲気など全くの無視でマギとハナは床に正座をしギャラリーとなってズズッと茶をすすっていた。
トルンが獰猛な熊と化したお父さんを必死でなだめようとする。それにお母さんがお父さんに抱きつきながら止めようとする。
「 ほっ・・・本当なんですっ!信用できないなら城に掛け合ってくれてもいいですっ。・・・危なっ・・・」
トルンの頬をかすめ、スプーンがそのまま壁に突き刺さる
「 あ、あなたっ。もし仮に本物だったらお城付きの侍女になるわ。
ハナのためにもお話だけでも聞くだけでもいいんじゃないかしら?」
「 こんな腰巾着のような男が皇子なはずないだろっ!」
「 ひどい言われよう・・・うぅっ!こんな時は・・・・ええっとっ・・・」
トルンの脳裏に父の言葉が走馬灯のように浮かぶ。
『トルン・・・もし困ったことがあればコレを見せればよい・・・』
トルンが体中をバンバン叩きながらソレを探し始める。
それを鑑賞しながら解説を入れるマギ、
「 ああっと!トルン皇子がなにか始めたっ!!しかぁーしまだ見つからないっ!!
お父さんは今にも殴りかかりそうな勢いだっ!
お母さん必死にお父さんを止めるっ!!
頑張れっ!お母さんっ!負けるなトルン皇子っ!
このままトルン皇子はボロ雑巾のように路中に放り出されてしまうのかーーーーっ!」
「 ちょっとマギさまは黙っていてくださいっ!!・・・あっ、あったっ・・・」
やっと探し物が見つかったらしくトルンが目を輝かせる。
ズルリとポケットの中から鎖のついた懐中時計が引き出される。
懐中時計のフタにはこの国の旗印が刻まれていた。
「 今はこの時計が唯一の証明なんですっ!コレは代々皇子に受け継がれてきた物で・・・」
と、必死に説明しながらお父さんに懐中時計を渡す。
それは煌びやかで派手な印象派ないものの、重厚感あふれる装飾で一種の気品さえも伺える。
普段使いには少し贅沢な感じがする一品だった。
「 トルン君も嘘が上手くなったよね。それ別に受け継がれてないし、タダの時計だし。」
「 マーギーさーまーっ!一体どっちの味方なんですかっ」
「 ボクは平等に愛を振りまくんでーす。敵味方の考えはよくありませーん。人類みな兄弟っ!」
実際その懐中時計は皇族のみが持つ事を許されたものだが20年ほど前に作られた少し古いものだった。
トルンとマギのやり取りの間、ややクールダウンしたお父さんが懐中時計をマジマジと見てピクリと眉をひそめた
「 む、この刻印は・・・」
「 でしょう!?」
トルンが泣きつくようにお父さんに応答を求める。
「 さきほどの行い、本当に申し訳ない・・・しかし、皇子のような人が何故そこのお嬢さんにお使えしているんだ?」
トルンがハッとマギの存在は一般には漏れないようになっているのを思い出す。だがしかし、マギの軽率な行動により過去に一般人に漏れてしまっている数は両手足で数えても足りないぐらいに上っている。
( ここでマギさまのことがばれてしまったらご先祖様に申し訳が立たないっ)
妙な使命感に燃え、咄嗟に嘘を考え出す。
「 ええっと・・・コチラに居られる方は・・・マギさまは城で魔法を研究をしている大魔法使いでして、今は子供のような姿を成されていますが、こう見えても結構お年を召されていて・・・魔法で姿を変えているのです。
そこで王になるまでマギさまの研究のお手伝いをするのが今の私の仕事なんです。
若いときに研究に没頭しすぎて、今になって『孫が欲しい』と言い出しお嬢さんをお選びになったのです。」
「 孫というより、もう玄孫の玄孫に孫が居てもおかしくない年だし。」
横でマギが茶々を入れたが目玉をグルグル巻きで支離滅裂になりながらもトルンが一通りの説明をするとお父さんはそこに共鳴できる部分があったのかフムフムと感慨ぶかく頷いた。
「 子供が居ないのか・・・それではお寂しいでしょうな・・・。」
「 信じていただけたのでしょうか!?」
お父さんが一度こくりと頷くと渋々ながらも了承してくれた。
「 解かりました。これはハナのためになるでしょうし、娘をお手伝いとして雇わせましょう。
しかしコチラにとっても大事な末娘・・・。週に一度はコチラに返すことをお約束ください。」
「 ええ、コチラのワガママをご理解頂きありがとうございます。悪いようにはしませんのでご安心ください。」
トルンがペコりと頭を下げる。
お母さんがニコニコとハナの頭を撫でて言った。
「 よかったわね。ハナー。お城はきっといい所よ。」
「 いいトコ?お菓子いっぱい食べれるかなー」
ハナが目をキラキラ輝かせて言う。
「 ハナちゃんはお菓子が好きなんだねー。頑張ったらいっぱい食べさせてあげるからね。」
とマギもハナの頭を撫で回す。
「 あたし頑張るよー。お菓子いっぱい食べるのっ」
キャッキャッと飛び跳ねてハナが喜んだ。
「 後日、正式な書類をもって伺いますのでソレまで約束がわりにその懐中時計をもっていてください。あっと、それからマギさまのことは内緒なんで誰にも言わないでくださいね。」
「 ええ、解かりました。至らないところもあるでしょうけどどうぞ大事にしてやってください。」
すっかりトルンのことを信頼したのかお父さんが和やかに握手をしながら話し込んでいた。
「 ・・・それでは、また伺いますので・・・いえ悪いようにはさせませんから・・・ええ、ありがとうございます。」
しばらく会話した後、トルンは深々とお辞儀をしこの場を離れる。
そのまま急ぎ足で、ハナを連れ正面玄関を出て進みいでるマギを追いかける。
「 ・・・。ねぇ、あなたにしては少々聞き分けが宜しかったんじゃない?」
トルンらを見送って暫くの余韻を残し妻が切り出した。意地悪そうに夫に笑いかける
「 ん?あぁ・・・・・・」
生返事をしながらシャラリと先ほどの懐中時計を手に持ち、妻の目の前で制止させる。
「 その時計がどうかしたのかしら?・・・確かにお金持ちが持ちそうだけど・・・」
不思議そうにお母さんは小首をかしげる。『あなたが信じるのには足りないじゃないのかしら?』と言いたいらしい。
「 ウチの爺さんが生涯最後に皇宮に納品したものでな・・・ほらココに俺の名前が・・・」
指挿した方を覗き込むと確かに見えづらいが装飾に密かに混じり小さく夫の名前が刻まれている
「 まぁ・・・でもどうしてあなたの名前が皇宮で使っているものに?」
さらに疑問が増えたと妻は眉間にシワを作る。
「 うむ、元々は俺に残そうとしてくれたものだったんだが、
あまりに出来が良いとかで旗印刻んでそのまま皇宮に流れてしまったんだ」
「 あら、それは悔しくなくて?」
妻が聞き返す。それに夫はニカリと笑い、
「 いや、いいんだ。まだ大事に持ってくれているだけで十分だ。
悪いことを企むような輩でもなさそうだし・・・そうだな・・・それに爺さんも皇宮が好きだったしな。」
そういうと爽やかに夫は笑い飛ばした。
そして少女は奉公に
- 2007/11/09 (金) 00:28
- 市井におでかけ