交戦
ウォルター道具屋の裏側、地元の住民しか知らないような狭い裏路地。
そこに一人ポツンとケーツが取り残されていた。
家の中から時折、罵声が聞こえたり何かが壊れるような激しい音が続いたかと思うと急に静かになり一切物音が聞こえなくなっていた。
「 ケーツ・・・何してんの?」
自宅の勝手口のドアにべったり張り付いて聞き耳を立てているケーツに思わずノエルが声を掛ける。
「 いや、ミシャル・・・マギサマさんがハナを欲しいって言い出してさ・・・」
「 マギサマさん?ミシャルさんが?」
「 ああ、お付きっぽい人がそう呼んでた・・・」
ノエルがふむふむと考え込む
「 ・・・そっか、他のところではキャサリンって呼ばれていたみたいだし・・・おかしいと思ってたんだよな。ケーツ、たぶんマギサマさんじゃなくて本当はマギさんだと思うよ?」
一瞬ケーツが驚いたような素振りを見せると妙に納得した。
「 はっ!そっかっ!!お付の人は名前に『さま』つけるもんなっ!どっかのお嬢様か何かかなー?
だったら道具屋の三男なんか興味ないかなー。うわっ!俺って望み薄いっ??」
( いや、望み薄いというか女の子じゃないし・・・)
一人はしゃぐケーツにノエルがツッコミを入れそうになったが面白くなくなってしまいそうなのでソレを飲み込んだ。
「 ケーツ。さっき怒って何も持たずに帰っただろ?これ代金とお見舞い。」
と言ってお金と小包をケーツに手渡す。
「 おぉっ!そういえばっ!危うく親父に怒られるとこだった!まぁ・・・お前もあんまり気にすんよなっ!」
さっきまでの怒りはドコへやらスッカリ機嫌よく小包の中のパンを勢いよく頬張りはじめた。
「 別に気にしないよ・・・ところで、ハナちゃんがどうかした?」
「 はっ!そうだった!マギさんが『ハナをください』て言い出して、親父に『外に出てろ』って言われて・・・」
「 ふーん。それでココで聞き耳立ててると・・・で、どうなの?」
ケーツのいまいちな説明にも慣れたようにノエルが状況を把握する。
「 さっきまで凄い物音したんだけど急に静かになってさ」
「 どれどれ、ケーツちょっと寄って。俺も聞く。」
といって二人ドアに横顔をべったり近づけ中の様子を伺う。
他に人通りのない裏路地・・・その光景はとても滑稽に写る。
「 ・・・・・・」
「 ・・・・・・」
「 何にも聞こえないな・・・空けてみる?」
「 いやっ、そんなことしたら親父に何されるか・・・どわっっ!!」
しばらくべったりと寄りかかって居ると内開きのドアが突然開かれ、そのままケーツとノエルが前のめりになってドテリと倒れこんだ。
「 やっぱりまだそこに居たか・・・ノエルも・・・」
呆れたようにお父さんがガクリと肩を落とす。
「 おっ親父っ!!どうなった!?マギさんは?ハナは?」
慌ててケーツが一気に質問する。
「 表口からハナを連れて帰った。」
無愛想にお父さんが一言で片付けた。
「 な、何でー!?」
「 おじさんが一番可愛がってた子じゃないですか?どうして?」
うーむとお父さんが考え込む。脳裏にはトルンとの約束が浮かぶ。
『マギさまのことは内緒なんで誰にも言わないでくださいね』
しばらく考え込んでからお父さんが口を開く。
「 とあるお金持ちの家にお手伝いとして働かせてもらうことになったんだ。
週に一度は戻してくれるらしい。」
「 へっ?へっ?」
ケーツが間抜けな声をだして理解できないでいると店の表側から女の子の叫び声がする。
「 と、父さんっ!ハナが怪しげなローブの男に連れて行かれてるわっ!!」
「 誘拐だわっ!!誘拐っ!」
「 はやく行ってやっつけてっ!」
ウォルター家の次女・三女・四女が揃ってキーキーと喚く。
「 やれやれ・・・まったくウチは兄弟が多いから説明するのも一苦労だ。」
と、お父さんはブツブツ言いながら足早に表の方に向かい始めた。
今度は男の子の叫び声が聞こえてくる。ウォルター家の次男さん。
「 おっ、親父ーっ!ハナが怪しげなローブの男に連れてかれそうだからケネス兄が止めようとしたら、側に居た女の子が魔法使ってきて・・・えーと・・・とにかくっ!今なんか大変なことになってるっ!」
「 何っ!?馬鹿もんが!今すぐ止めて来いっ!!」
お父さんが真っ赤になって怒り出す。
「 ああ、こんな日に限って配達に出ている子が多いんだから。」
クラクラと目眩を覚えたお母さんがその場にへなへなと座り込んだ。
「 ははっ、何か大変だな。ケーツ、俺はこれで失礼するよ。」
ボーゼンと状況が理解できないでケーツがいるとノエルが爽やかに声をかけた。
「 んなぁ!待ってくれってばっ!!」
ケーツが泣きつくようにノエルを止めるがノエルは「じゃっ!」と短く言ってその場から立ち去った。
「 父さんっ!今、キム姉が『久しぶりに血が騒ぐわ』って言って兄さんを手伝いに行ったっ!」
次女がお父さんに叫びかける。お父さんもソレを聞いて現場に急行する。
「 うぅっ・・・あのかつてのキム姉とケネス兄が復活しているのか・・・」
ケーツがその場に一人ポツンと取り残されてしまった。
変わって中央公園。
激しい攻防が繰り広げられ所々地面がえぐられている。
始めはギャラリーや、やじ馬が「ヤンヤ、ヤンヤ」とはやし立てていたものの、あまりの激しさに皆どこかに散り散りに逃げてしまった。
ドカーン・バキーンといった豪快な音が当たりに響き渡る。
「 ちょっとハナをいい加減、離しなさいよっ!」
長い髪を一つに三つ編みにして束ねた女性がかなり強力な魔法を放ちながら叫ぶ
「 怪しいやつめっ!ハナをどうするつもりだっ」
続いて程よく筋肉をつけた短髪の男が殴りかかりながら叫ぶ。
「 だーかーらー、君達のお父さんに聞けば解かる事だってっ!!あぁっ!」
トルンが必死にウォルター家兄弟タッグの凶悪な攻撃を避けながら叫ぶ。
「 君らの家系は口より先に手がでるんだねー。」
といいながらマギが魔法を発動する。ザァッと空間から水が溢れ出す。
兄弟はその水圧に怯みながらも二本足でしっかりとその場に踏みとどまっていた。
その表情は悪しき魔王を打たんべく正義感に満ちる勇者というより、これから「このゴミ虫をどう料理してやろうか」と狂気に満ちるバーサーカーと呼ぶに相応しかったっ!
「 マーギーさーまーっ!攻撃しないでくださいよっ」
トルンがハナをオブって今にも泣きそうになりながら走り回る。ハナがそれにキャッキャッと嬉しそうに笑いながら楽しんでいる。
「 そう言って一人に聞きに行かせて叩くつもりねっ!残念だけどその作戦には乗らないわよ。
ケネスっ!ちょとおおきな魔法を使うから援護してっ!」
「 わかったっ」
ケネスと呼ばれた男がボッという音をたて地面を蹴り、マギに飛び掛る。
マギは陣を描く手をいったん止め、後ろに飛び下がる
目標物から反れたコブシが地面を貫きバリバリと亀裂を生み出した。
「 うわぁ・・・この威力・・・何か使ってるでしょ?
・・・でも安心した、これ喰らっても大丈夫だよね?」
先ほどの陣を完成させ、地面に手を捕らわれたケネスの頭上にバリバリと電気が生み出された
「 うっ」
雷光がケネスの身体を貫くと小さな悲鳴をあげその場に倒れこんでしまった。
「 ケネスっ!!・・・くそっ・・・でもコレで終わりよっ」
弟の敗北にもめげずに腕をすばやく踊らせ陣を構築する。
が、その手を後ろから捕まれ阻止されてしまった。あわてて後ろを振り返る。
「 くっ・・・まだ仲間がいたなん・・・て、え、父さん?」
「 キムっ!またお前は暴走しおってっ!」
長女は頭にお父さんの「ゴン」と鈍い音がするのゲンコをくらうと力なくダラーンと気を失ってしまった。と同時、彼女の置き土産の陣も力を失い空に散開し、ひとまずの終焉を迎えた
「 どうもご迷惑をおかけしました。この二人にはよく言い聞かせておくんでハナをよろしくお願いします。」
お父さんはペコリと頭を下げると右手にはケネス、左手にはキムを引きずりながらその場から立ち去った。
しばらく無言でソレ見送り続けたが、暫くしてトルンが肺に溜まった空気を一気に吐き出しその沈黙をやぶる
「 はー、何だか個性的な一家でしたね。」
「 だねっ」
マギがニコニコと何事もなかったように相槌を打つ。
「 マギさまも強いね。お父さんの次に強いのキム姉ちゃんかケネス兄ちゃんなんだよ。」
ハナもニコニコと何事もなかったように嬉しそうに話す。
「 あれよりも強いお父さんって・・・本当にあの時何もなくて良かった。」
トルンが懸命に説得(?)していた光景を思い出しブルブルと恐怖した。
そろそろ日も傾いて空がオレンジ色になり明かりもポツポツと灯り始めマギとトルンはハナを連れ城への帰路についた。
さらわれた少女を助けるためにとった行動とは?
- 2007/11/09 (金) 00:30
- 市井におでかけ