反省会
「 ふぁー、・・・今日は疲れたかな・・・そろそろ寝るか」
とっぷりと夜も更け、マギは読みかけの本にシオリを挟み就寝の準備にとりかかる。
そこにコツコツコツとドアが三度叩かれ、しばらくしてドア越しに声が掛けられる
「 マギさま・・・起きてらっしゃいますか?ちょっとだけいいですか・・・?」
「 何々?まさか・・・夜這い?いいよー、入ってきてー」
「 どういう反応ですかぁぁぁっ!!」
叫び、バタっとトルンが勢いよく扉をあける。
「 わーぉ、トルン君てばダイタン・・・」
ケタケタと笑いながらマギは手招きをしていた。
「 ・・・はぁ、・・・そういうこと言うと姉達がまた勘違いで喜ぶじゃないですか・・・」
大きくため息を付きながらもマギのそばにあった椅子に腰掛ける
「 そぉ?あれはあれで個人的に面白いと思うけどなぁ・・・」
楽しそうに笑うマギに呆れ顔でトルンがもう一度深くため息をもらす
「 それは客観的にみればの話で被害者としてはちっとも面白くないんですがね。
・・・コホン、いえ・・・こんな話をしにきたのではないのです。
今日の件、どうなさるつもりなんですか・・・?」
と言ってトルンは仕切りなおす。
「 今日・・・?ああ、壊したものは直すし、町の人には謝り・・・」
ひらひらと人差し指を躍らせ、反省の色無しに続けるマギの言葉をトルンが遮った。
「 違います!それもありますがいつもの事でしょう?
・・・また、そうやって誤魔化すのですか?」
「 いつもの事って・・・なかなか心外・・・
・・・もしかしなくても、ハナちゃんのこと・・・だよね?」
冗談でも話すように「ククク」と笑いながら返す
「 ええ、マギ様。仮にも’何も知らない人’を城に入れるとは!」
「 大丈夫さ、巧くやってくれるよ。仕事なんてしてつもりはないし、
実際は居てくれるだけでいいんだし」
「 ・・・また、誤魔化す・・・」
トルンがジトリと相変わらずヘラヘラと笑っているマギの目を見る、
一瞬、短く深い沈黙が両者を包みこみ、マギは表情を変えずにすぃと目だけそらし口を開く、
「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・まぁね・・・いずれ何かあると思うよ、ずっと居たらね・・・」
その応答にトルンが思わず身を乗り出してきた。
「 だったら何故なんです!?あなたが居て何も疑問を持たない人がいないとでも言うのですか・・・
あの子だって例外ではありません。居れば時間的な歪みが生じます!」
「 それはトルン君が昼間がハナちゃんのお父さんにいったじゃないか。魔法とかなんとか・・・」
「 ここに・・・あなたと長く居れば居るほどソレだけでは済まされなくなるでしょう。
『私とは・・・』・・・『皆と違う』って・・・』」
「 そうだね。答えを出そうとするだろね・・・『何故なのか・・・』って」
「 こちらが何も示さなければ、たとえ間違っていようと答えは出されます」
「 ・・・そう・・・『化物』・・・とか?」
「 ・・・・・・ソレも一つの答えでしょうね」
「 ・・・ジーナさんは大丈夫だったよ?・・・あとアオ君でしょ・・・タマさん・・・」
右の指を左手で折りながら「ひぃ、ふぅ、みぃ」と数えるマギが両手を使い出した頃、
この日何度目か解らぬ深いため息をつき、トルンがいらだち気味に強く言う。
「 ・・・『該当者』はこの場合は問題ではありませんよ
誰しも同じではないことは、あなたなら重々承知のことでしょう?
それとも・・・、大丈夫じゃなかったなんて事は絶対に無いと言い切れるのですか?」
「 ・・・・・・・・・ハナちゃんは大丈夫だから・・・」
言葉とは逆に指先がかすかに揺れていた。そしてそれ以上の言葉は続かなかった
数秒、深い沈黙が流れトルンが力を抜き、またもやため息をもらす。
「 ・・・申し訳ありません。解っていながらも出すぎた真似をしました。忘れてください」
トルンが深々と頭をさげ話をここで終わらせると
どういうわけかぱっと明るい表情に戻りマギが取り繕う。
「 いいよ、いーよ、別に気にしないで」
ヒラヒラにこにこと左右に両手を振るマギに対し怪訝そうな顔でトルンが返す
「 ・・・私ではなくあなたが、です。
そろそろ『アレ』が腹を空かせるころですので
これ以上この話をしているとマギ様がまたご無理をなさると思いまして。」
「 む、何のことかな・・・。」
「 いえ、何も。失礼しました。今日はお疲れでしょう、お休みください」
トルンは気を悪くした相手にに軽く会釈し席を静かに立ちさっさと退出する。
・・・がドア閉めても尚動かずに、しばらく暗い廊下に立ち中の様子を伺っていると、物音一つせずにシーンとした静寂だけが耳をつく
--------・・・・・数十秒・・・身動き一つせずにいた頃、これ以上の反応は見込めないと悟り忘れていた呼吸を再開する。
深い深呼吸の後、ずるずるとその場に腰を落とし、グッタリとうな垂れ泣き言をもらす。
「 ・・・うぅ、感じ悪い・・・
しまった、こんなはずでは無かったのに・・・」
しばらく愚痴愚痴と嘆息していたがそれもピタリと止み、今は姿見えぬ相手にに語りかける。
「 ----・・・じゃない。マギ様はただの『変態』です。」
言い残し、重い腰を持ち上げその場をさる。------静寂だけが取り残された。
マギが床に就いてから半時も過ぎようとしていたが、眠れずに腕を月夜に照らし、規則正しく指折り数を数える。
トルンが部屋を出て少し経過してから続けられていたが、
何を数えていたか、何処まで数えたかは当人にも解らなく、ただ延々とその動作が繰り返されていた
「 ・・・・・・ふ」
突然マギは一笑し、ぐっと拳を力強く握る
「 トルン君やっぱり可愛げ無くなった。」
長生きということ
- 2007/11/09 (金) 00:32
- 市井におでかけ